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魔本「Loreley」(ドロップボックスから発掘)

東方鈴菜庵21P。小鈴「~(略)幻想郷には珍しい海の怪異が記された本」より着想。



【パターンA】
 自らの音楽性がひとつの壁に行き当たったと悩むミスティア。歌い散らしても気分は晴れず、友人の朱鷺子(仮)へ相談する。彼女はあまり難しいことを考えない小鳥妖怪の中でも変わり者で、本ばかり読み色々偏った知識を身につけていた。
 そんな朱鷺子(仮)から、最近手に入れた読むだけで歌の上手くなる本だという胡散臭い代物「ラインの黄金」なる書籍を渡され、半信半疑ながらも持ち帰り、読み始める。
 西洋妖怪語で書かれたそれは本来なら辞書と首っぴきでかからねば1ページも読み解けない筈だったが、何故かミスティアにはとても親しみやすく感じ……夢中で読むうち、寝落ちしていた。
 夢のなかで彼女は、謎の声を聴く。

『――力が、欲しいか』

 明くる日。目覚めたミスティアは、起き抜けに行う日課の声出しをしようとするのだが、声が出ない。ぱくぱくと口が開け閉めされるだけだ。
 首を捻って、どういうことだろう、びょういんに行かないとだめかな、と困り果てていると、どこかから声が聞こえる。
 はて、誰かお客様かしらんと出迎えるも、誰の姿もない。
 そしてもう一度聞こえる声。意地悪く笑うその声は、なんと自分の口が勝手に喋っていたのだ。
 
 ――私は、Loreley。

 そう名乗った「彼女」こと謳われし歌の怪(自称二つ名)ローレライ。曰く、かつて実在したという歌い手で、あまりの巧さにただそれだけで人の身から魔の領域へ踏み込んだ程なのだとか。
 ミスティアの声へ取り憑いたローレライは本物ではなく、その語り継がれた伝説そのものを本体とする分け身のような存在で、分け身とはいえ矜持と実力は本物に全く引けをとらないと豪語。
 本を読んだ中で歌姫となる可能性を持った才能の原石に反応し、最初は声、徐々に存在の全てを成り代わって奪い取り、第二第三の妖魔歌手「ローレライ」となるのが目的だとわざわざ教えてくれる始末。
 とんでもない、歌姫になれるかもって言われたのは嬉しいけど乗っ取られるなんてごめんだと朱鷺子(仮)の元へ不良品押し付けやがってと怒鳴りこむミスティアだったが……。
 
 ――でも、幻想郷には海がない。全て聞き終えた朱鷺子(仮)が漏らしたのは、そんな一言だった。
 このローレライ伝説、どうやら海が深く関わってくるらしく、そんな場所では本来の力を発揮できない筈だというのだ。
 そんな筈あるかと食って掛かるローレライに、朱鷺子(仮)は挑発してみせる。嘘だと思うなら声以上の部分を乗っ取ってみなさいよと。
 冗談じゃないよぅと慌てるミスティア、よしきたと勢いづくローレライ。……しかし、いつまで待ってもローレライに奪われた部分は声だけであった。
 もしものことがあれば、私が全身全霊を以ってきちんと助けてあげるからと朱鷺子(仮)が「妖怪の誓約」まで持ち出して約束したため、ミスティアは渋々ながら引き下がる。
 話の中で、そういえば歌ってみないの?と訊かれ、そりゃそうかとローレライを更に煽ってみせると、不貞腐れながらも彼女は伸びやかな歌声を――













 ……誰も。何一つ、口を開けなかった。
 身じろぎ一つも、出来なかった。
 だって。まさか本当に、「巧すぎて危険」な歌声が存在するなんて。それが聞き慣れた「ミスティア」の声で為されるなんて、思いもしなかったのだ。
 ローレライの歌から、確かに自分の求める足りないものがあると感じたミスティアは、この迷惑な同居人を祓ってしまうのは惜しいんじゃないか、少なくともまだ保留していいんじゃないかと、考え始めていた。




『幻想郷そのものが、海の底に存在することは、秘中の秘である』







【パターンB】
 
 人知れぬ何処かの山奥で、鳥から成った妖怪たちの暮らす集落が存在した。
 そこでは妖怪たちの「歌」が生活の全てに根ざす文化として在り、例えば歌で会話する、歌が一部貨幣の代わりとして通用する、更には未婚の娘が作った歌(自らを象徴する一曲、というものを作ることが成人の儀式)に、「外」へ出て見聞を広めてきた男(交易など含め里を出ることは男にしか許されていない。尚外に出て無事帰ってくることが男の成人儀式)が歌に付ける名前を捧げ(求婚と同義)それを受け入れた娘は自らの名前を捧げられたものに変える風習、など、など。挙げればキリがない。
 そんな中で、失語症を患い歌どころか話すこともままならない「わたし」が階層としてどんな扱いを受けているのか、想像に難くないと思う。
 実際、後天的な発症とはいえコミュニケーションがままならないというのは本当に大変だ。くそったれな天神サマが同時期に「文意を理解する程度の能力」を発現させてくれなければ、とっくに死んじまっていただろう。
 この能力があるおかげで、妖怪語の中でもニュアンスの変化が貧しい(歌で事足りるので)鳥獣系の文字も、勿論人間語も、全て視認しただけで筆者の意図するところをきちんと理解できる。
  歌えない小鳥は羽虫と一緒だなんて誰かが言ってたけど、流石に虫扱いはいやだし、せいぜい名無しの本読み妖怪くらいにしといてほしいな、なーんて。
 んで、主に人間語の本とかから知恵も付けられたし、ヒメさま――「ミスティア」と仲良くなることもできた。そこはまあ、感謝してもいるんだ、ほんとさ。


 うちの里でヒメさまなんて呼ばれて崇め奉られている、ミスティア。なんでかといえば勿論、里一番の歌い手だからだ。それも、歴代最高の。
 女たち歌い手の中でもトップクラスに巧い子は、里の外からたまに招聘する人間や妖怪、どっかのお偉いさんに披露する舞台で歌うことが義務付けられてて(それは誉れだっていう風潮なんだけど無理矢理なもんは無理矢理)ミスティアは第57代目に当たるその歌い手だった。
 そこまではまあ良いんだけど、ヒメさまなんて呼ばれる所以、彼女はとにかく「巧すぎた」。わたしも何度か聴いたから恥ずかしげもなく言っちゃえるけど「空前絶後」に「巧い」んだ。
 ……わたしも結構年若い方だけど、もし過去にミスティアみたいな歌い手が生まれてたとしたらこの小さい集落ももーちっとは栄えてたと思うから、ほんとに歴代最高なんだろう。
 で。何が問題なのかっていえば彼女、私と同じく喋れないのだ。ただしそれは呪いによるもので、お偉いさん相手の会合以外でのみ歌うことが出来、それ以外の発語、歌の練習とかでさえも、一切許されない。全て筆談。
 ……ね?

 わたしってば逆に里一番の語学達者だった訳で、奴隷扱い(笑)からは破格の待遇ヒメさまの筆談相手として召使兼暇つぶし要因として呼ばれてったんだけど、それが何年前だったか……。
 
 
 



 (略)いろいろあってミスティアは喉を突き、ミスティアの書いた本を朱鷺子(仮)が読み、名無しの本読み妖怪が幻想入りする
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